【第5回】年金改正法についてわかりやすく解説します!

日本退職公務員連盟の会員の皆様へ

第5回は、「将来の基礎年金の給付水準の底上げ(マクロ経済スライドの調整)」について、別添資料(P43~P58)に沿って、わかりやすく解説します。

P43解説:「将来の基礎年金の給付水準の底上げ」についてです。この事項は、厚生労働省は、財政検証の4つのケースのうち、経済が好調に推移しない場合の措置として考えるとしたうえで、その内容を法案に盛り込む方針でした。しかし、自民党の合同部会の関係団体からのヒアリングでは、「厚生年金の積立金の流用ではないか」などの意見が出されたことを考慮し、次期財政検証の結果を見たうえで判断するとの考えの下、法案に盛り込むことを断念しました。その後、法案は国会提出され議論が始まりましたが、立憲民主党は、「あんこの入っていないアンパン」と揶揄して、法案の修正を求めました。修正協議の結果、自民、公明、立憲民主による修正が行われ、可決成立しました。 この事項については、当連盟が行った緊急要望において、「厚生年金の積立金の活用については、国民が納得するような説明をされたい」としていました。 今回、厚生労働省は、詳細な説明資料を公表しましたので、その資料に沿って、解説をし、そののちに「緊急要望」した「国民が納得するような説明」になっているかについて、解説をします。

P44解説:「現在の基礎年金の仕組み」についてです。図にあるように、基礎年金は、国民年金加入者(第1号被保険者)と厚生年金加入者(第2号被保険者及び第3号被保険者(配偶者))の数によって、給付費を按分して負担する仕組み(「加入者按分」といいます。)です。また、厚生年金の保険料と積立金は、基礎年金と厚生年金の報酬比例部分の両方に充てられます。高齢世代になって、年金を受け取る際には、厚生年金に加入していた人は、基礎年金と厚生年金の報酬比例部分を受け取ります。

P45解説:「基礎年金の持つ機能①人口構造や就業構造の変化に対応する機能(賦課方式)」についてです。 図にあるように、国民年金と厚生年金の加入者の割合が、上段、中段、下段と、時代とともに変化していることがわかります。基礎年金の給付費用は、年金を受給する人が過去にどの制度に加入していたかにかかわらず、その時の加入者数で分担する仕組みとなっています。このことによって、それぞれに加入者数が変化する中、安定的に基礎年金の給付ができるということです。

P46解説:第1回の「日本の公的年金はハイブリッド」で解説したように、公的年金の財政方式は、現役世代が納めた保険料をその時々の受給者の年金給付に充てるという、賦課方式を採っていますが、過去にまだ受給者が少なかった時代に積み立てた積立金を活用(運用)して、給付費を賄っています。

P47解説:「(参考)少子高齢化の中でも将来世代の給付水準を確保するための仕組み」についてです。 これは、マクロ経済スライドの仕組みを説明したもので、少子高齢化の下で、現役世代の保険料の上昇を抑えるとともに、年金給付の額を物価や賃金の上昇より低く抑え調整するというものです。

P48解説:「基礎年金の持つ機能②人口構造や就業構造の変化に対応する機能(積立金)」についてです。 ここでは、加入者が国民年金から厚生年金へ、または、厚生年金から国民年金に、加入制度が変わっても、積立金は制度を移動せず、保険料を支払った制度に残る仕組みになっており、個人の持ち分という考え方はない、ということを説明しています。

P 49解説:「基礎年金の持つ機能③所得の低い方に比較的厚く給付(所得再分配機能)」についてです。 ここでは、基礎年金は、厚生年金に較べて、「所得再分配機能」が高いことについて説明しています。下段の表にあるように、生涯の平均賃金が40万円のケースと20万円のケースで、年金額がどう違うかを示したものです。40万円の人の年金額は、基礎年金6,8万円と厚生年金8,1万円の合計14,9万円。20万円の人の年金額は、基礎年金6,8万円と厚生年金4,1万円の合計10,9万円となります。両者の生涯の平均賃金の比率は、50%であるのに対し、年金額合計の比率は、73%となり、所得の低い人に比較的手厚い給付を行い、支えあう仕組み(所得再分配機能)となっています。

P50解説;「経済が好調に推移せず、基礎年金のマクロ経済スライドが長期化する場合は厚生年金受給者を含む所得の低い方の給付水準が低下」についてです。 ここでは、基礎年金が低下すると、図の右の「将来」を見ると、所得の高さの3つの→のうち、「所得が低い層ほど水準が低下」にあるように、報酬比例部分と基礎年金の部分との比率では、基礎年金の部分が高いので、基礎年金水準の低下の影響が大になり、所得再配分効果が低下すると説明しています。

P51解説:「将来の基礎年金水準の低下への対応」についてです。 これは、将来、経済が好調に推移する場合(上段)と経済が好調に推移しない場合(下段)とを比較して、基礎年金の水準が低下した場合には、必要な法制上の措置を採って、基礎年金水準を引き上げるという考え方を示したものです。ここで注目したいのは、経済の推移によって選択肢が変わるという点です。経済が好調であれば、法制上の措置は採る必要がなくなります。また、経済が好調でなく、法制上の措置を講じることとなった場合に、基礎年金と厚生年金の報酬比例部分の合計額が低下した場合には、その影響を緩和するための措置を講じることとされました(衆議院での法案修正により追加)。

P52解説:「法制上の措置を講じた場合の保険料と給付の変化」についてです。 まず、保険料水準ですが、2004年の制度改正時の価値が固定されており、国民年金が月額17,000円、厚生年金は、18,3%(労使折半)で固定されています。他方、給付は図の左ように、現行の仕組みのままとすると基礎年金の給付水準が長期(2052年まで)にわたって低下します。これを防ぐため、図の右のようにマクロ経済スライドの調整を基礎年金と厚生年金の報酬比例部分を同時に終了させる措置を講じた場合には、基礎年金と厚生年金の報酬比例部分を合わせた給付水準も上昇するというものです。ただし、右の図の緑色の左の部分は、図の青色の線(現行の仕組みを前提とした場合)よりオレンジ色の線(法制上の措置を講じた場合)のほうが低くなっています。これは、厚生年金の報酬比例部分が、現行より低くなることを示しています。このための措置については、次ページに記述があります。

P53解説:「基礎年金の底上げのイメージ」についてです。 ここに書いてある、底上げをするためには、①厚生年金の積立金を活用する、②国庫負担(税)を給付の底上げに応じて増加させる、ことが必要となると説明しています。

P54解説:「厚生年金受給者が生涯に受け取る年金受給総額への影響(モデル年金1人分)」についてです。 ここでは、前ページの措置を講じた場合には、多くの人の年金受給総額が増加すると書かれています。また、年金額がこの措置を講じなかった場合の額を下回るときは、その影響を緩和するための措置を講じることとされています。(令和7年 年金法付則第3条の2第2項)

P55~57解説:「よくいただくご質問・ご意見①~③」についてです。 ここでは、マクロ経済スライドの調整に、厚生年金の積立金を使うことに対する意見、配慮措置について、国庫負担の財源の確保についての質問に対する考え方が書かれています。 この、厚生年金の積立金の活用については、既報「当連盟の緊急要望が法案にどう反映されたか」(2025,5,29)で解説しましたが、「国民が納得するような説明をされたいこと」に十分に応えるものになっていないと考えます。それは、①現在の基礎年金給付の分担方式(P45「加入者按分」)に加えて、積立金を使ってどのように分担するのか、つまり、基礎年金給付費のどの部分を積立金による按分にするのか、その場合に、加入者按分部分とはどういう考え方に基づいてどういう配分になるのか、②このように積立金を活用するとした場合に、厚生年金の将来の給付費の確保はできるのか、といった点について、説明が必要だと考えますので、当連盟は、引き続き要請をしてまいります。

P58解説:「(参考)所得代替率の推移のイメージ」についてです。 ここでは、P52の図を所得代替率に焦点を当てた図にしたもので、2004年の改正で、マクロ経済スライドの調整の仕組みを入れた時の見通しに比べて、デフレ経済の下で給付調整の発動が予想を大きく下回ったことにより、調整終了時期が基礎年金と厚生年金の報酬比例部分との間にずれが生じたこと、また、それに伴い所得代替率が変化していることを示したものです。


【本ページで解説した資料のPDFです。各支部での共有等でご利用ください。】

■第5回:年金改正法わかりやすく解説資料